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税コラム

土地の路線価評価額と売却価格

相続・贈与によって土地を取得した場合には、特別な事情がない限り、国税庁が定めた財産評価基本通達に従い路線価方式又は倍率方式により評価した金額を「時価」として相続税又は贈与税を申告・納付することが一般的です。以下、「時価」について検討してみたいと思います。

1. 時価をめぐる実務上の問題点

例えば相続税の納税資金を捻出するため、相続で取得した土地を売却するようなケースにおいて、その土地の売却価格が路線価評価額を下回ってしまったような場合に、納税者にとっては、この売却価格を土地の時価として申告・納付した方が有利になります。

このような場合に、路線価評価額によらず当該売却価格を「時価」として申告・納付することが出来るのか実務上問題になります。

2. 相続税法上の時価と財産評価基本通達

相続税法では、相続等によって取得した財産の価額は「時価」によって申告・納付することを定めています。この「時価」の解釈については、学説・判例では「通常取引される価額」とされており、わかりやすくいえば通常市場で取引される売買価格であると解されています。

しかしすべての財産の時価を把握するのは困難ですので、実務では、財産評価基本通達に従って評価した価額を「時価」として申告・納付することが認められています。この財産基本通達によれば、土地については、路線価方式又は倍率方式によって評価することが定められています。

なお路線価は、時価の8割相当額になるように設定されていますので、相続等によって取得した土地を売却する場合に、売却価格が路線価評価額を下回ることは稀ですが、土地の個別事情や売却事情によっては、路線価評価額よりも低い価格で売却せざるを得ない場合があり得ます。そうなると納税者は、当該売却価格を「時価」として申告・納付したいと考えると思います。

他方、税務署は、極力個別事情を排除し課税の公平性を図りたい立場ですので、財産評価基本通達に従って評価された路線価評価額が「時価」であるとして、売却価格を「時価」として認めないこともあります。

3. 裁判例の動向

そうなると税務署と納税者の争いになるわけですが、その争いは国税不服審判所に対する審査請求を
経て、最終的には、裁判所に持ち込まれます。

東京地裁平成30年10月30日判決では、相続した土地を納税資金の捻出のために売却し、その売却価格が、路線価評価額の8割程度であったため、納税者はその売却価格こそが相続税法上の「時価」であると主張しました。

判決は、評価通達が定める路線価方式の合理性を認め、それが全ての納税者に平等に適用されることを重視し、さらに土地の売却が、相続開始から約8か月後または約2年8か月後に行われていたため、相続開始時点から売却までのタイムラグを考慮し、その売却価格は、相続時点の「時価」ではないと判断し、納税者の請求を棄却しています。

過去の裁判例も類似の判断をしているものもありますが、相続開始時点から売却までのタイムラグをそれほど重視していない判決もあるため、売却価格をもって「時価」とするにはケースバイケースであるともいえます。

4. まとめ

相続によって取得した土地を、路線価評価額よりも安く売却せざるを得なかった場合には、上記の裁判例の動向等を踏まえて対処する必要があります。さらに売却事情はもとより、事案の個別事情も多様でありますので、それぞれの事情に応じて対処する必要があります。具体的には、その土地を路線価評価額を上回る価格で売却できなかった個別事情等を丁寧に説明した上で、売却価格を「時価」として申告・納付することに一定の合理性があることを主張できるように準備しておく必要があると思われます。

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